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ホーム患者を生きる高齢者の歯:3 乾燥剤の誤食でやけど

高齢者の歯:3 乾燥剤の誤食でやけど

 東京都大田区に住む認知症の女性(93)は2014年9月、上あごのインプラントにつけていた人工歯のブリッジをなくしてしまった。日本大学歯学部付属歯科病院(東京都千代田区)の萩原芳幸・歯科インプラント科長(58)に作ってもらった総入れ歯を使うようになった。

 女性は同病院に通う前の11年ごろから少しずつ腎臓の機能が低下し始めた。16年秋ごろには体全体がむくむなどの症状も出て、食欲も落ちた。さらに症状が進み、17年5月には週3回の人工透析を受けるようになった。すると、食欲が回復し、同居する次女(64)が驚くほど体調がよくなった。

 透析が始まって1カ月ほどたった6月27日、女性と一緒に昼食をとった次女は介護疲れからか睡魔に襲われ、別室で横になっていた。熟睡してしまったことに気づき、「しまった」と跳び起きた。すでに午後2時を回っていた。

 台所にいた女性の唇が腫れていた。「何か変なものを食べたらしい」。直感した次女がごみ箱を見ると、封が切られて中身が空になった乾燥剤の袋が捨てられていた。ノリの缶に入っていたものだった。乾燥剤は生石灰(せいせっかい)で水と反応して熱を発する。インターネットで誤食時の対処法を調べ、次女は女性に水と牛乳を飲ませた。

 だが、口の中を見ると下唇の裏側に生石灰の粒がまだたくさん付いていた。次女は母親を連れて近くの歯科医院に駆け込んだ。

 歯科医師が口の中に水を流しながら20分ほどかけて乾燥剤を吸いとってくれた。「痛い」と暴れる女性の体を歯科衛生士と一緒に押さえながら、次女は「もうちょっとだから我慢して」と諭した。

 翌日、女性は定期的に通っている日大歯科病院を受診。口の中のやけどは自然に治るのを待つことにした。幸い腫れや痛みは数日でおさまった。次女は口に入れてはいけないものを女性の手の届かない場所に片付けた。

 昨年3月、今度は女性の足に突然力が入らなくなった。硬膜下血腫が脳を圧迫していた。手術を受けたが、歩けなくなった。医師の勧めもあり、約1カ月間入院した後、自宅から車で20分ほどの有料老人ホームに入居した。(出河雅彦)

出典元:朝日新聞2019年3月13日朝刊 P.31「患者を生きる」 承諾番号:19-1318
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