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ホーム患者を生きる「患者を生きる」食べる 高齢者の歯:1 人工歯に不具合で痛み

「患者を生きる」食べる 高齢者の歯:1 人工歯に不具合で痛み

 東京都大田区に住む女性(93)は2012年3月、「口の中が痛い」と訴えた。同居する次女(64)に連れられ、日本大学歯学部付属歯科病院(東京都千代田区)を受診した。

 女性は60代で上下のあご両方の骨にインプラント(人工歯根)を埋める手術を受けた。インプラントは歯がなくなった場合の治療法の一つ。チタン製のインプラントをあごの骨に埋め込み、その上にアバットメントと呼ばれる土台を取りつけ、人工歯をつける。女性は「ブリッジ」と呼ばれる橋のような形をした人工歯をつけた。

 ところが、長年使っているうちに上あごのインプラントからブリッジが外れやすくなった。粘着性の入れ歯安定剤を使ってブリッジを固定していたが、うまくかみ合わなくなり、痛みが出た。

 同歯科病院の萩原芳幸(はぎわらよしゆき)・歯科インプラント科長(58)が診察すると、上あごの骨に6本入っていたインプラントのうち左の2本は土台が外れたり、折れたりしていた。それが原因で、あごの土手にブリッジがあたって痛みが生じていた。下あごは問題なかったが、周囲には歯周炎の原因となる汚れがたくさんたまっていた。

 まず、下あごのインプラントに固定されているブリッジの人工歯の下の部分を少し削ることにした。人工の歯と歯茎の間に隙間をつくり、歯間ブラシを入れて清掃しやすくするためだ。外れやすくなっていた上のブリッジは歯の内側を削り、そこに歯科治療で使う仮歯の材料を詰めて土台に固定しやすくした。

 しかし、ブリッジはいずれ使えなくなる可能性があった。萩原さんは、その場合に備えて総入れ歯を作ることにした。

 女性は受診の2年前、認知症と診断されていた。初診時には受け答えができたが、将来的に意思疎通ができなくなる可能性があった。そうすると、入れ歯を作るうえで型取りやかみ合わせを確認するのが難しくなる。萩原さんは「将来を見越して準備をしましょう」と説明した。

 女性は食べることが大好き。次女は「歯の機能が改善し、ずっと自分でごはんが食べられるようになれば」と願った。(出河雅彦)

出典元:朝日新聞2019年3月11日朝刊 P.21「患者を生きる」 承諾番号:19-1318
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