Ossseointegration獲得後に生じる偶発症と
インプラント・補綴装置のメインテナンス

九州大学大学院歯科研究院 咀嚼機能再建学分野
古谷野 潔

 オッセオインテグレーテッドインプラントはその予知性向上に伴い、近年では単独歯欠損症例にも頻繁に用いられるようになった。Polizziら1)は臼歯部に用いた単独インプラントの3年間の観察結果においても、成功率93%と高い予知性を有すると報告している。
 一方で長期間の使用に伴い、アバットメントスクリューの緩みや破折などの補綴的な偶発症が報告されている。この項ではルートフォームタイプのインプラントに関連した最近のレポートから発生しうる偶発症のタイプと、その頻度をGoodacreら2,3)、Berglundhら4)のレビューを参考に整理する。

 偶発症は外科手術に関連したもの、インプラントの喪失、辺縁骨の吸収、インプラント周囲軟組織に関するもの、上部構造に関連した偶発症に大別される(表1)。ここでは、インプラントが機能を始めてから以降の偶発症について述べる。

 

表1 インプラントの臨床的偶発症

インプラントの喪失
外科的偶発症
辺縁骨の吸収
インプラント周囲軟組織に関する偶発症
補綴的偶発症
Goodacre et al 2)より
1)インプラントの喪失
 表2は上および下顎における補綴装置の種類ごとのインプラントの喪失の発生率を示したものである2)。上顎のオーバーデンチャーで19%、上顎の固定性ブリッジで10%と上顎におけるインプラントの喪失が多い。上顎では固定性の補綴学装置に比して可撤性補綴装置で喪失が多いが、下顎では可撤性と固定性では大きな差は見られない。また上下顎ともに単独欠損症例での喪失は3%と小さい。これらのことから上顎無歯顎では固定性補綴装置を優先して選択すべきであることが示唆される。
 
表2 補綴装置の種類とインプラントの喪失
 
ロスト本数/全本数
平均発生率
上顎オーバーデンチャー
206/1,103
19%
上顎無歯顎フィクスドブリッジ
443/4,559
10%
上顎部分無歯顎フィクスドブリッジ
213/3,297
6%
下顎部分無歯顎フィクスドブリッジ
157/,2567
6%
下顎オーバーデンチャー
242/5,683
4%
下顎無歯顎フィクスドブリッジ
255/9,991
3%
上下顎単独インプラント
42/1,512
3%
Goodacre et al 3)より改変引用
 
2)インプラント周囲組織に生じる偶発症(表3)
 これには瘻孔、軟組織の炎症/増殖が含まれる。Goodacreら2)によれば、軟組織の炎症/増殖は6%程度(17,565症例中の1,060症例)であるが、オーバーデンチャーについてみると、平均19%(2101症例中の395症例)とその発生頻度が高いことを指摘している。部位的にはアバットメントの周囲と連結されたバーの下に多くみられ、清掃不良、不適当なアバットメントの使用、上部構造の下のデッドスペースの存在、付着歯肉の欠如などの原因が考えられる。オーバーデンチャーではインプラント固定性フルブリッジよりも頻回のリコールが必要であることが示唆される。
 さらにBerglundh ら4)のシステマティックレビューを参考に、上部構造の種類別にインプラント周囲炎の発生頻度をまとめたのが表4である。もっとも頻度が高いのは部分欠損に用いられた固定式インプラント補綴装置(平均5.86%)で、ついで全顎固定式インプラント補綴装置の1.0%、インプラントオーバーデンチャーの0.56%、シングルクラウンで0.0%となっている。しかしBerglundhらはレビューの対象論文には、「インプラント周囲炎」の用語が記載されたものは少なく、限定されたデータであると注釈しており、今後のさらなる解析が望まれる。
 
表3 インプラント周囲軟組織に生じる偶発症の発生率
報告者
補綴装置の種類
観察期間(年)
発生率
Adell et al.
IFCD
1〜15
7%
Jemt
IFCD
1
6%
Hemmings st al.
IFCD
9
20%
Engquist et al.
IOD
1.5
25%
Naert et al.
IOD
2
11%
Jemt et al.
IOD
1
21%
Cune et al.
IOD
2
16%
Hemmings et al.
IOD
5.3
32%
Avivi-Arber and Zarb
ISC
1〜8
2%
Albrektsson
IFCD/IOD
1〜7
1%
Tolman and Laney
IFCD/IOD
6.5
25%
Lazzara et al.
Multiple
5
6%
Allen et al.
Multiple
6
27%
IFCD= Implant fixed complete denture; IOD= Implant overdenture
ISC=Implant single crown
Goodacre et al 2)より改変引用
 
表4 インプラント周囲炎の発生頻度
報告者
上部構造の種類
発生頻度
Buser et al. (1997)
IOD
0.7%
Cordioli et al. (1997)
IOD
0%
Deporter et al. (1999)
IOD
0%
Hemmings et al (1994)
IOD
1.6%
Mericske-Stern et al. (1994)
IOD
1.5%
Arvidson et al. (1998)
IFCD
0%
Hellem et al. (2001)
IOD+IFCD
3.1%
Hemmings et al. (1994)
IFCD
1.6%
Behneke et al. (2000)
IFCD
14.4%
Bragger et al. (2001)
IFCD
9.7%
Koth et al. (1988)
IFCD
4.3%
Anderson et al.(1998)
ISC
0%
De Leonardis (1998)
ISC
3.3%
Henry et al (1996)
ISC
0%
Palmer et al (2000)
ISC
0%
Berglundh et al 6) より改変引用
 
3)補綴的偶発症
 表5は補綴的偶発症を頻度順に示したものである2)。オーバーデンチャーにおける維持力の喪失や調整(30%)、オーバーデンチャーのリライン(19%)、オーバーデンチャークリップ破折(17%)、床の破折と可撤性補綴装置のトラブルが高いことが示唆される。また固定性装置ではレジン前装の破折(22%)、ポーセレン前装の破折(14%)が比較的高い頻度で認められる。ついでネジの緩みが6−7%認められる。ネジやインプラント体の破折は1−2%と比較的少ない。Pjeturssonnら5)は5年後のインプラントが破折する累積発生率を0.4%、アバットメントスクリューの破折や緩みの累積発生率は7.3%、前装材の破折の累積発生率は14%としており、いずれもGoodacreらの報告と類似した結果となっている。
 またLangら6)は、天然歯とインプラントを連結した場合には、インプラント同士を連結した場合に比べ、有意に補綴的偶発症が多かったと報告しており、長期での偶発症の発生頻度を下げるには、これらの点を考慮すべきであろう。
 
表5 補綴的偶発症とその発生頻度
 
偶発症をおこした本数/全本数
オーバーデンチャーの維持力調整
113/376
30%
前装材の破折(レジン)
144/663
22%
オーバーデンチャーのリライン
114/595
19%
オーバーデンチャークリップの破折
80/468
17%
前装材の破折(ポーセレン)
36/258
14%
オーバーデンチャーの破折
69/570
12%
対合補綴装置の破折
20/168
12%
アクリルレジン床破折
47/649
7%
リテイニングスクリューの緩み
312/4,501
7%
アバットメントスクリューの緩み
365/6,256
6%
リテイニングスクリューの破折
282/7,094
4%
メタルフレームワークの破折
70/2,358
3%
アバットメントスクリューの破折
244/13,160
2%
インプラントの破折
142/12,157
1%
Goodacre et al 3)より引用
 
おわりに
 以上,上部構造装着から長期に起こりうる問題点について解説した。 Pjeturssonら5)は、5年後にまったく偶発症を認めない患者は61.3%のみであるとしており、4割程度の患者は何らかの偶発症に遭遇することが予想されるため、定期的なリコールが必要と考えられる。治療前から将来起こりうる上記の問題を考慮し、それらのリスクを回避できるような治療計画とすること、またリコール時には上記の項目に注意を払うことが重要である。

1)Polizzi G,Rangert B, Lekholm U. et al. Branemark system Wide Platform implants for single molar replacement: clinical evaluation of prospective and retrospective materials Clin Oral Implant Dent Relate Res2(2):61-69,2000.
2)GoodacreCJ, Kan JYK., Rungcharassaeng K et al. Clinical complications of osseointegrated implants J ProsthetDent 81:537-552,1999.
3)GoodacreCJ, Bernal G, Rungcharassaeng K et al. Clinical complications with implants and implant prostheses J ProsthetDent 90:121-13,2003.
4)Berglundh T. Persson L. Klinge B A systematic review of the incidence of biological and technical complications in implant dentistry reported in prospective longitudinal studies of at least 5 years. J Clin Periodontol 29(Suppl.3):197-212,2002.
5)Pjetursson BE, Tan K, Lang NP et al A systematic review of the survival and complication rates of fixed partial dentures (FPDs) after an observation period of at least 5 years I. Implant-supported FPDs Clin Oral Impl Res 15:625-642, 2004
6)Lang NP, Pjetursson BE, Tan K. et al. A systematic review of the survival and complication rates of fixed partial dentures (FPDs) after an observation period of at least 5 years II. Combined tooth-implant-supported FPDs Clin Oral Impl Res 15:643-653, 2004





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