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ビスフォスフォネート関連顎骨壊死に対するポジションペーパーより
(ビスフォスフォネート系薬剤とインプラント治療:追補)

平成 22 年 10 月 10 日
東京歯科大学口腔インプラント学講座 矢島安朝

 現在、(社)日本口腔インプラント学会ホームページに「インプラント最新情報」として「ビスフォスフォネート系薬剤とインプラント治療」という題名で掲載されている私の解説は、すでに 1 年半以上が経過し、最新の情報ではなくなってしまっている。その間に、ビスフォスフォネート関連顎骨壊死検討委員会(日本骨代謝学会、日本骨粗鬆症学会、日本歯科放射線学会、日本歯周病学会、日本口腔外科学会からなる委員会)から「ビスフォスフォネート関連顎骨壊死に対するポジションペーパー 1 ) 」が公表された( 2010.3 月)。そこで、このポジションペーパーの内容を要約して、前回の私の解説の追補として掲載させていただくこととした。

1. ビスフォスフォネート関連顎骨壊死( BRONJ )

1)顎骨の特殊性

BP 製剤に関連する骨壊死が顎骨のみの発生する理由として、顎骨には他の骨には見られない特徴がある(表 1 )。それらが BRONJ の発生に関連すると考えられる。

表1

2)診断基準

以下の診断基準を満たした場合に BRONJ と診断する。
・現在あるいは過去に BP 製剤による治療歴がある。
・顎骨への放射線照射歴がない。
・口腔、顎、顔面領域に骨露出や骨壊死が 8 週間以上持続している。

3) 臨床所見

 欧米では注射用 BP 製剤投与患者における BRONJ の発生は、経口 BP 製剤投与患者における BRONJ 発生に比べ、その頻度が高い。しかし、わが国においては、経口 BP 製剤投与患者 おける BRONJ 発生の比率が高いといわれている。表 2 に BRONJ の臨床症状を、表 3 に BRONJ との鑑別診断が問題となる疾患を示す。

表3

4) BRONJ 発生のリスクファクター

 局所的リスクファクターとしては、多くの論文が口腔衛生状態の不良をリスクファクターとして挙げ ている。インプラント埋入については、 BRONJ との関連性を否定する報告もあり、両者の関連性は明ら かではない。しかし、口腔清掃が十分に行われているインプラント埋入前、埋入直後とは異なり、長期経過の間には口腔衛生状態が不良となり、 BRONJ 発生の危険性が増すと考えられる。表4にBRONJ 発生のリスクファクターを示す。

2. BP 製剤投与患者の歯科治療と BP 製剤の一時休薬・再開

 侵襲的歯科治療を行うことが問題となる BP 製剤治療患者を表 5 に示す。 BP 製剤投与予定患者は、投与前に口腔衛生状態を良好に保つことの重要性を認識させると同時に、口腔診査により BRONJ のリスクファクターとなる要因をチェックしておくことが重要である。可能であれば歯科治療が終了し、口腔状態の改善後に BP 製剤投与を開始する。
  BP 製剤の休薬が BRONJ 発生を予防するという明らかなエビデンスは得られていない。そこで休薬については図 1 のようにまとめられた。

3. まとめ

 BRONJ の発生のメカニズムは明らかではないが、 BP 製剤とは全く異なる作用機序により骨吸収を抑制する denosumab(Amgen 社 ) でも、ゾレドロン酸と同程度で BRONJ が発生するとの報告がある。このことから、 BRONJ の発生に BP 製剤自体が問題であるのではなく、 denosumab と BP 製剤に共通する骨吸収抑制作用が関与していることが推測される。いずれにせよ、 BRONJ が顎骨のみに発生することから、顎骨の特殊性を考慮して、口腔清掃を徹底することにより、 BRONJ 発生頻度を低下させることができると考えられる。
  したがって、個々の症例への対応は、医療チーム(医師、歯科医師 / 口腔外科医、薬剤師、看護師、歯科衛生士、歯科技工士)と患者との十分な協議・検討により判断すべきである。

文献
1)Bisphosphonate-Related Osteonecrosis of the Jaw: Position Paper from the Allied Task Force  Committee of Japanese Society for Bone and Mineral Research, Japan Osteoporosis Society,  Japanese Society of Periodontology, Japanese Society for Oral and Maxillofacial Radiology and  Japanese Society of Oral and Maxillofacial Surgeons : J Bone Miner Metab (2010) 28,
  (DOI 10.1007/s00774-010-0162-7)

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