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インプラント治療における画像診断

愛知学院大学歯学部歯科放射線学講座 助教授
 愛知学院大学歯学部附属病院口腔インプラント外来 科長
内藤宗孝

 インプラントの画像診断において、その治療時期に応じた適切な画像検査法が選択されなければならず、また、放射線被曝を伴う場合には常に正当化・最適化が計らなければならない(表1)。その画像検査法自体は、口腔顔面領域における種々な疾患に対して行なわれる画像検査法と何ら変わるところはない。

表1 検査時期と撮影法
検査時期 撮影法
初診時 口内法 X 線撮影,パノラマ X 線撮影
術前画像検査 ステントを用いた口内法 X 線撮影、パノラマ X 線撮影
断層撮影、 CT 、歯科用コーンビーム CT 、 (MRI)
1次手術終了時から 2次手術直前 原則として撮影は行わない (口内法 X 線撮影、パノラマ X 線撮影)
2次手術終了時 口内法 X 線撮影(平行法)
経過観察時 口内法 X 線撮影(平行法)
緊急時・事故時 必要に応じた適切な撮影法を選択

(第4版 歯科放射線学 医歯薬出版 から引用 1 ) 、一部改変 )

 近年、口内法 X 線撮影、パノラマ X 線撮影や顎顔面領域の X 線撮影においてはデジタル化した撮影が進んでおり、より少ない線量で適切な画像診断が可能になってきている。 
  インプラントの画像診断学的分野での最新情報に値する話題としては、インプラントの術前画像診断における顎骨横断画像の応用が挙げられる。断層撮影、 CT (コンピュータ断層撮影)や歯科用コーンビーム CT によって、その画像が獲得できる。それらのうち、どの検査法を用いるかの選択は、患者被曝、必要な撮影範囲、画像の鮮鋭度、骨ミネラル量の測定等を考えあわせて行なわれる。また、それらの撮影法が選択される時に診断用サージカルステントが用いられる事により、情報量はより多くなる。それらの撮影法について、順次解説する。

1.断層撮影法  インプラント画像診断での顎骨横断画像の獲得のためのガイドラインが、アメリカ口腔顎顔面放射線学会( 2000 ) 2) やヨーロッパオッセオインテグレーション学会( 2002 ) 3) から示され、断層撮影法が推奨されている。近年では、パノラマ装置に断層機能を付加した装置が開発され、開業歯科においても導入が可能である。適切な断層面の設定が重要であり、多数のインプラントの埋入が計画されている場合には、個々の計画部位に断層面を合わせる必要があるために、検査時間を要する。しかしながら、少数歯欠損の検査の場合には被曝線量は少ない。この画像の寸法精度は高く、また細かい骨梁構造を観察できることが、報告されている 4,5) 。断層厚さは他の撮影と比較してやや厚い。顎骨横断断層画像の一例を図1に示す。

図1 a
断層機能を搭載したパノラマ断層撮影装置
 直線軌道方式を採用している。

図1 b
アルミニウム管指標のX線診断用ステントを用いたパノラマ X 線画像
 白矢印の部分の断層撮影を行なった。

図1 c
顎骨横断断層画像
 直線軌道方式の断層撮影により得られた。この画像において、歯槽頂部が尖っており皮質骨はわずかに菲薄化している状態が観察でき、また、細かい骨梁構造も観察できた。さらに、直線軌道方式の断層画像に特徴的な横走するアーチファクトを認めた。

2.C T  (コンピュータ断層撮影法)  CT は近年マルチスライスヘリカル方式の採用(図2)により、短時間で薄層の断層像が得られるようになった。特徴として、診断に適した種々な2次元画像や3次元画像を再構築することが可能であり、また骨ミネラル量も測定でき、インプラント画像診断への情報量は多い。この CT から得られる顎骨横断画像は、用いるソフトウェアによっては計測誤差が大きくなる事が指摘されている 5)
  また、この CT データを医療画像界で標準的なデータフォーマットである DICOM 形式で保存することにより、種々なインプラント計画ソフトウェアや医用画像表示ソフトウェアに利用することもできる。この検査法は、他の断層撮影法と比較して、被曝線量が多いため、適切な撮影条件の設定が必要である。マルチスライスヘリカル CT を応用した一例を図3に示す。

図2
マルチスライスヘリカル方式
 ヘリカル方式では、検査中X線管球が連続して回転し、その間患者ベッドも水平的に移動する。マルチスライスでは、検出器が複数列並んでおり、一度に検出器の数に応じたスライス数が得られる。図は 4 列の検出器の例を示す。
(GE 横河メディカル ( 株 )CT 装置の資料から引用 )

a

b

c

図3
マーカに一致した顎骨横断画像
 マーカ(インプラント埋入計画方向)に一致した顎骨横断画像を得るために、 CT 装置付属のソフトウェア(ダブルオブリーク断面画像)を用いた。
a  軸位断画像での顎骨横断面の設定
b  マーカに一致した近遠心方向の設定
c  顎骨横断画像
  マーカ、下顎骨外形、皮質骨、下顎管が明瞭に観察できる。

3.歯科用コーンビーム CT  歯科用コーンビーム CT は、近年開発された装置であり、各社から種々な製品が発売されている。一口に歯科用コーンビーム CT と言っても、撮影領域が頭部全体を含む装置と歯・歯槽骨に特化した装置、また X 線の受光部がイメージインテンシファイア (I.I) を用いる装置とフラットパネルディテクタ (FPD) を用いる装置など種々である。歯・歯槽骨を撮影対象とした撮影領域が限局的な装置では、その被曝線量は CT と比較して非常に少ない 7) ことが利点として挙げられる。歯科用コーンビーム CT を用いたインプラント術前画像診断の一例を供覧する。

図4 a
歯科用コーンビーム CT 装置モリタ社3 DX
 歯・歯槽骨を撮影対象とした撮影装置であり、その撮影領域は直径 40mm 、高さ 30mm の円柱状である。

図4 b
歯科用コーンビーム CT 画像
 マーカ(インプラント埋入計画方向)に一致した顎骨横断画像を得られる。その画像では、マーカ、歯槽頂部の形態、皮質骨、下顎管が明瞭に観察できる。

4. X 線診断用ステント インプラント治療では、近年トップダウントリートメントの概念が提唱されている。これに沿って、術前検査では欠損部の骨量や骨質を診断するとともに、術前のインプラント埋入計画を診断することが重要である。そのため、画像検査時にはX線診断用ステント(図5)が必要となる。そのステントは、最終補綴物を想定した歯冠外形とともにインプラント埋入計画(埋入位置と方向)を示すマーカが取り付けられる。マーカにはアルミニウム管、ガッタパーチャ、 ストッピング仮封材などのX線不透過物質を使用する 8)

図5
X 線診断用ステントの一例
 マーカには直径 4mm のアルミニウム管を使用。

5.画像再構築ソフトウェア  CT や歯科用 CT の画像データは、種々なインプラントシミュレーションソフトウェアや3次元画像再構築ソフトウェアに応用することが可能である。

図6
3次元画像ソフトウェア OsiriX による3次元再構成画像
 OsiriX は Macintosh OS10.3 以降に対応した無料の3次元画像ソフトウェアである9) 。歯科用コーンビーム CT 画像データを用いた3次元多断面再構成画像表示である。頬側歯槽骨や近遠心的に歯槽頂を観察できる。

6.画像診断学分野における今後の展望 マルチスライスヘリカル方式CTでは検出器の多列化が進んでおり、現在はCTと歯科用コーンビームCTとは異なったモダリティであるが、将来的にはそれらは統合されていく方向にあると考えられる。また、CTや歯科用コーンビームCTの画像データは、現在一部ではナビゲーション手術や手術用テンプレート作製に応用が進んでいるが、今後、この分野は目覚ましく発展していくと考えられる。

文献
1)内藤宗孝,代居敬:インプラントにおけるX線検査法.古本啓一,岡野友宏,小林馨編集,歯科放射線学;第4版.医歯薬出版,東京, 330-336 , 2006 .
2)TYNDALL, D.A. and BROOKS, S.L. : Selection criteria for dental implant site imaging: A position paper of the American Academy of Oral and Maxillofacial Radiology ; Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radioliol Endod. , 89 : 630-637 , 2000 .
3)ARRIS, D., BUSER, D., DULA, K., GRONDAHL, K., HARRIS, D., Jacobs, R., Lekholm, U., Nakielny, R., van Steenberghe, D. and van der STELT, P. : E.A.O. Guidelines for the use of diagnostic imaging in implant dentistry. A consensus workshop organized by the European Association for Osseointegration in Trinity College Dublin ; Clin Oral Impl Res , 13 : 566-570 , 2002 .
4)NAITOH, M., KAWAMATA, A., IIDA, H. and ARIJI, E. : Crosss-sectional imaging of the jaws for dental implant treatment: Accuracy of linear tomography using a panoramic machine in comparison with reformatted computed tomography ; Int J Maxillofac Implants , 17 : 107-112 , 2002 .
5)NAITOH, M., FURUTA, T., OHSAKI, C. and ARIJI, E. : Assessment of mandibular trabecular bone patterns in linear cross-sectional tomograms ; Aichi-Gakuin Dent Sci. , 17 : 9-14 , 2004 .
6)内藤宗孝,勝又明敏,野原栄二,泉雅浩,大崎千秋,有地榮一郎:インプラント画像診断におけるマルチスライスヘリカルCTの有用性?ダブルオブリーク断面再構築画像についてー;日口腔インプラント誌, 18 : 280-284 , 2005 .
7)岩井一男,新井嘉則,橋本光二,西澤かな枝:小照射野コーンビームCT撮影における実効線量;歯科放射線, 40 : 251-259 , 2000 .
8)内藤宗孝,塩島勝,菊地厚,小鷹文美,奥村信次,石上友彦,栗田賢一,大崎千秋:X線診査用ステントを利用したインプラント術前CT検査法;歯放, 35 : 13-22 , 1995 .
9)内藤宗孝,勝又明敏,小野俊朗,土屋友幸,有地榮一郎: OsiriX による歯科用CT3次元多断面再構成画像; Dental Diamond , 30(15) : 72-74 , 2005 .

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