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骨内インプラントの選択 (1/2)
京都インプラント研究所
所長 山上 哲贒
近代骨内インプラントの歴史はGreen Field(1913)、Formiggini(1947)から始まったと言えます。その後、多くの先人達により種々の骨内インプラントが開発、臨床応用されて来ました。しかし、これらは臨床が先行し、基礎研究はあまりみられませんでした。
国内においては1975年川原、山上、平林などにより京セラ製、アルミナ単結晶(サファイヤ)インプラントBIOCERAMが開発臨床応用されたのが最初だと思います。その頃、インプラントは一般的に認知されておらず、これに反対の先生方も多かったことを記憶しております。また、Lin kowのブレードベントが世界的に普及しており、SCREWタイプはだめだとまで言われましたが、現在では殆どの骨内インプラントが歯根タイプインプラントになってきました。
尾崎らは1)2)BIOCERAM SCREWタイプインプラントの25年間、臨床統計について第5回WCOIならびに第31回、日本口腔インプラント学会で報告して来ました。その結論は、120本のSCREWタイプインプラントについて調査した結果、累積残存率は10年で90.38+2.91%、20年で72.47±5.76%、25年で55.36+8.75%であることを報告しています。その不良原因のほとんどが連結した天然歯の歯周疾患やう食によりインプラントに過剰に負担がかかったものが原因であったと報告しています。
従って天然歯と連結する1回法1ピースインプラントのものを応用し、即時荷重をしても25年以上残存し、機能をはたしていることを見れば、健康な天然歯と連結する場合免荷期間をおかなくても十分使用できるものではないかと思います。
しかし、現在の表面が粗造で上皮との接着がアルミナ単結晶サファイヤより弱いインプラントは、わずかにインプラントの動揺をきたしても歯周疾患にかかり、残存不可能ではないかと思われます。2000年に日本口腔インプラント学会渉外委員会で調査した川添ら3)は、購入業者を含めて、日本で市販されているインプラントは29社、37システムあると報告しています。
それぞれ特微がありますが、インプラント材料は、Ti、Ti-6A1-4V合金やこれらにHAコーティングしたもの、その他従来のアルミナ単結晶サファイヤなどがあります。表面構造はマクロなレベルのネジ構造とベントを付与したものがあり、ミクロのレベルのTPS、ブラストやポーラスによる微細構造になっており、またそのものを酸化処理したものも出ております。
そこで今回、術式上で1回の手術で施術する1回法1ピース、1回法2ピース、完全埋入型の2回法3ピースの3方法について述べます。(図1)
図1
1回法1ピースには従来の歯根タイプ(スクリュー、シリンダー、スパイラル)、プレートタイプ、レームスフレームなどが含まれますが、今回はオステオインテグレーションタイプのものについて述べさせていただきます。
現在、代表的なものはTi にHAをコーティングしたAQBや、POI1回法1ピースなどがあります。
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長所
- 1回の外科的処置でよい
- インプラントポストに直接上部構造をセットすることができる
- ポストが歯肉縁上にでているためペリオテストによるオッセオインテグレーション状態の診断が容易である
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短所
- ポストを曲げることや審美性を満足させることが困難
- 新生骨ができる迄、免荷することが難しい
- 多数歯欠損には応用しづらい
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応用
- 1~2歯欠損の中間欠損、両隣在歯によりTEKを作成しインプラントに負荷がかからないようにすることが出来るケースに応用できる
1回法1ピースでは負荷がかかりやすいため、歯肉縁上のポスト部を短くしたタイプといってよい。
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長所
- 1回の外科的処置でよい
- 1回法1ピースより免荷しやすい
- ペリオテストによる診断が容易
- アングルポストを使用することができる
- オーバーレイデンチャーを装着することができる
- 術者可撤式上部構造を作成することができる
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短所
- 下顎無歯顎症例など多数歯欠損には不適(免荷期間中、義歯によりインプラントに荷重がかかり動揺をきたす場合がある。このようなケースの場合は完全埋入型2回法3ピースを使用するのが望ましい)
- 粘膜の厚いケースや審美性を要求する場合は2回法3ピースが上部構造を作成しやすい
- G.B.R.応用時、埋入型2回法より応用しづらい
- コロナルスリューのゆるみの可能性
- 術者可撤式の場合、アクセスホールの充填物の磨耗、脱離がある
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長所
- 線維性結合組織の介在しない骨添加の獲得の可能性がある
- 骨に接近した外傷のかからないインプラント材埋入のために正確な器具操作
- 安静な環境での治癒
- 部分的および無歯顎患者に適用
- 骨の治癒期の初期に被覆補綴物を装着できる
- 固定性、可撤性いずれの補綴物にも適用
- インプラントに失敗した場合に除去が容易
- 術者可撤式の上部構造を作成することができる
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短所
- 2回外科的処置が必要
- 長い免荷期間
- 適度な量の骨が必要
- 軟組織の治癒の初期において可撤性補撤物の装着は不可能
- ペリオテストによる診断不可
- アバットメントスクリューとコロナルスクリューなどのネジの緩みがある可能性がある
- 術者可撤式の場合、アクセスホールの充填物の磨耗、脱離がある
現在の骨内インプラントを術式上以上の3システムに分けることができ、それぞれ特徴があります。これらを十分理解して選択されることをお薦めします。
また、多くの骨内インプラントが市販され、ユーザーである歯科医師に混乱を与えています。もう少し整理され、コストも安くなることが望まれます。
また、インプラントを患者に応用する場合、経済的な効果だけを考えることなく、どこまでも患者様の「幸せ」を第1に考える必要があります。
インプラントの予後不良例をださないためには図2の3つの条件がうまく行くことが大切です。多くのインプラントの中から患者にあった最良のものを選択し、適応症の診断を的確に行い、正しい術式でインプラントを施術すべきです。また、患者様と一生のお付き合いをし、フォローする必要があります。
最後に、日本口腔インプラント学会の認定医になるよう努力することを希望いたします。
図2
- Ozaki k., Hukumoto M., Ehara Y., Sakuma Y., and Yamagami A:Single Crystal Alumina Dental Implant-25year clinicarl research-.5th WCOI,Tokyo,2001
- 尾崎健太郎、深澤貴子、福本雅美、他:BIOCERAMR screw インプラントー25年間の臨床統計についてー、第31回日本口腔インプラント学会抄録集、九州、2001
- 川添堯彬、他:海外のインプラント学会及び国内販売インプラントシステムの現状、日本口腔インプラント誌、第13巻、第4号、108~118、2000
- AAP 歯周治療法のコンセンサス、アメリカ歯周病学会編、クインテッセンス出版株式会社、
1992年8月30日発行
症例 長期臨床例で特に上顎が予後不良になり、順次インプラントを追加し、天然歯が全て無くなり、インプラントによる機能ならびに審美性回復を行った症例を供覧します。
1986年当時は天然歯と連結しなければならないインプラントであったため、抜歯適応の歯牙を残し、インプラントを行いました。そのツケが年数とともに表われ、インプラントを3回追加した苦労した症例です。
殆どのインプラントを抜歯直後に施術しました。これは、インプラントの位置決めと骨の喪失を最小限にすることが出来ました。現在、予後良好に推移しております。
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